生成AIとはそもそも何?
生成AIとは、学習したデータと「プロンプト」と呼ばれる命令をもとに、テキスト・音声・画像・映像などさまざまなコンテンツを生み出すことができるツール全般を指します。有名なツールとしては、Chat-GPT、X(旧Twitter)の提供するGrok、Meta(旧Facebook)のLlama2などが挙げられます。生成AIが使用するモデルの中でも自然言語処理に特化したもの、テキストによる質問と回答を行うものを大規模言語モデル(LLM)と呼びます。
2023年にChat-GPTが一般向けにリリースされて以降、爆発的に生成AIのサービスは増加しました。生成AIの利用シーンも幅が広がり、個人的な利用から、企業の一部署での利用や全社導入、また自治体や医療機関など、あらゆる場所でその活用法が模索されています。
企業での生成AIの導入率は?
総務省が2024年7月に発表した「情報通信白書」のデータでは、各国の企業を対象に、業務における生成AIの活用状況について質問したところ、生成AIの活用方針が「積極的に活用する方針である」「活用する領域を限定して利用する方針である」と回答した割合の合計は、日本が42.7%でした。中国の95.1%、アメリカの84.7%、ドイツの72.7%と比較すると低い水準に留まっています。
生成AI活用による効果・影響においては、「業務効率化や人員不足の解消」につながるかの質問に対して、「そう思う」「どちらかというとそう思う」の合計は74.7%と多くの回答が得られていました。一方で、「社内情報の漏洩などのセキュリティリスクが拡大すると思う」「著作権等の権利を侵害する可能性があると思う」と回答した企業が69.9%と、活用への期待感はあるものの、リスクを懸念しているという結果でした。
日本の企業全体としての活用はまだまだこれからというものの、ここ数年で増えている大手企業のAIの活用事例を次の段落で説明します。
企業でのAIの活用事例
生成AIをはじめとして、AI活用を進めている企業の事例を多業界にわたって紹介します。
【広告・プロモーション】商品画像の作成
広告クリエイティブにおけるAIによる画像生成の実用化が始まっています。
株式会社サイバーエージェントは、生成AIを活用した広告効果の高い商品画像自動生成機能「極予測AI」を開発、2024年1月より本格運用を開始しました。従来までの広告用画像作成に必要だった機材や撮影スタッフが必要な撮影プロセス(ロケなども含む)を必要とせず、広告用の画像を自動で大量に生成することが可能になったとのことです。また、効果予測AIと連携し、より広告効果の高い画像を提供可能にするとのことです。
参考:極予測AI、生成AIを活用した商品画像の自動生成機能を開発・運用開始へ
https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=29572
【飲料・広告】AIを活用した広告アイディアの募集キャンペーン
コカ・コーラはマーケティング活動の一環として、生成AIを活用してブランド価値を高めるキャンペーンを行いました。AIプラットフォーム「Create Real Magic」において、デジタルアーティストが独自のアート作品を作成し作品を提出すると、ニューヨークのタイムズスクエアやロンドンのピカデリーサーカスのデジタルビルボードに表示されるチャンスがあるという内容です。このプラットフォームは、OpenAIとBain & Companyによって開発され、GPT-4とDALL-Eの機能を組み合わせたもので、アーティストはコカ・コーラのアーカイブから素材を使用して作品を制作できます。
参考:Coca‑Cola Invites Digital Artists to ‘Create Real Magic’ Using New AI Platform
【メーカー】AIアシスタントによる社員のDX化の促進
社内のDX化を促進する動きとして、AIアシスタントを社員に導入する動きもあります。
パナソニックHDは、AIアシスタントサービス「PX-GPT」を国内約9万人の全社員向けに提供開始しました。このサービスは、パナソニック コネクトの「ConnectGPT」を基に開発され、Microsoft AzureのAI技術を活用しています。AIを用いた業務効率化や生産性向上を目指し、社員が日常業務でAIに触れる機会を増やすことで、全社的なデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するのが目的です。
参考:AIアシスタントサービス「PX-GPT」をパナソニックグループ全社員へ拡大 国内約9万人が本格利用開始
https://news.panasonic.com/jp/press/jn230414-1
【建築】自社専用の対話型AIの導入
同じように、社内向けに生成AIの活用環境を構築している事例も増えています。
鹿島グループは、自社専用の対話型AI「Kajima ChatAI」を構築。これにはMicrosoft AzureのAI技術が活用されています。同グループでは、グループ会社を約2万人の従業員を対象に運用を開始。外部への情報漏洩リスクを防ぎながら、従業員が生成AIを安全に利用できる環境を構築しています。業務効率化や生産性向上が期待されており、DX戦略の一環として今後も推進される予定です。
参考:グループ従業員2万人を対象に専用対話型AI「Kajima ChatAI」の運用を開始
https://www.kajima.co.jp/news/press/202308/8m1-j.htm
次の段落の「AIを使ったサービス提供事例」にも登場しますが、対話型AIは社内向けだけでなく、社外向けのサービスとして提供されるケースも増えています。業務効率化や新しいアイディアの創出などを社員ができるようにAI活用をサポートしていくことが、企業として求められているといえるでしょう。
【製造業】異常検知システムによるトラブルの未然防止
製造現場におけるAI活用の例として、機械や設備の異常を早期に検知するシステムが挙げられます。
ブレインズテクノロジー株式会社の「Impulse」は、市場に先駆けて異常検知ソリューションを提供しており、特に大阪ガス株式会社のような大手企業でも活用されています。このAIは、機械学習を通じて通常の動作パターンから逸脱する異常を検知し、故障や不良品の発生を未然に防ぐ役割を果たすとのことです。
参考:製造業 | Impulse(異常検知ソリューション) | ブレインズテクノロジー株式会社
https://www.brains-tech.co.jp/impulse/manufacturing/
【製造業】ヒト型双腕ロボットの開発
製造現場ではロボットアームも進化し続けています。
エクサウィザーズとカワダロボティクスは、ヒト型双腕ロボット「NEXTAGE」を用いた製造業向けの粉体秤量工程の自動化システム「exaBase ロボティクス 粉体秤量 for NEXTAGE」を共同開発しました。従来のAIロボットアームと比較すると、秤量前のボトル搬送・秤量・秤量後のボトル搬送の一連のプロセスにおける所要時間を約30%短縮しながら、高精度な秤量を実現。このシステムは、多種多様な粉体や容器にも対応し、汎用性が高く、精度の高い秤量を可能にするとのことです。今後は、粉体以外の液体にも対応した自動化システムの開発が予定されています。
参考:エクサウィザーズ、ヒト型双腕ロボットにより製造業の粉体秤量工程を高速自動化する「exaBase ロボティクス 粉体秤量 for NEXTAGE」をカワダロボティクスと共同開発
https://exawizards.com/archives/21909/
【小売業】販売の需要予測
AIによる需要予測で廃棄ロスの削減や発注の効率化の事例が出てきています。
中国地方でスーパーマーケットを展開するマルイと、日本IBMは、マルイの全店舗にIBMのAI需要予測「IBM Advanced Demand Forecast」を導入すると発表しました。実証実験では、月間の客数予測精度が店舗平均で90%を超える高い精度を達成し、販売機会の向上と廃棄ロスの削減につながる効果が確認されました。一部の店舗では発注時間が50%削減される効果もあったため、2024年9月から全店舗での導入に至ったとのことです。
参考:スーパーマーケットのマルイ、IBMのAI需要予測を全店舗に導入
https://japan.zdnet.com/article/35223979/
【製造業】需要予測によるサプライチェーンの最適化
販売だけでなく、材料調達から製造も含めたサプライチェーン全体の需要予測にAIを役立ている事例もあります。
建築材料・住宅設備機器メーカーのLIXILは、調達・製造・販売までの各プロセスにおける在庫管理や業務運営の効率化を目指してAI需要予測システムを導入しました。PwCコンサルティングの「Multidimensional Demand Forecasting(MDF)」というシステムを使用して、LIXIL Housing Technologyの製品120万機種、販売エリア別も含めると230万機もの予測対象に対して具体的で高精度な予測算出が可能となったとのことです。サプライチェーン全体の最適化に向けて、製品だけでなく副資材なども含めて需要予測を行っていくそうです。
参考:LIXIL、AIを活用した需要予測を導入し、試験運用開始
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000268.000015099.html
市場分析・アンケート
NTTデータ先端技術株式会社は、市場調査・マーケティングリサーチを手掛ける株式会社インテージへの、生成AIを活用したマーケティングリサーチ業務の検証の支援を開始しました。アンケート調査における設問設計、データ分析・集計・分類は、人力による膨大な時間が必要になる作業です。顧客の求める要望を反映した質問文の作成や、統計ソフトでのアンケートのローデータの集計・情報の整理、また統計ツールでは一括で処理しきれない自由回答項目の集計・分類などを、生成AIを活用して効率化を図っていくとのことです。
自社で市場分析・新規事業のプランニングを行う際にも、AIを活用して顧客データ/市場動向を調査して、新規事業の草案を作成する活用方法もあります。
参考:マーケティングリサーチ業務への生成AI活用検証を開始
https://www.intellilink.co.jp/topics/news_release/2024/022100.aspx
【運送業】配送センター等のリソースの最適配置
業務量を予測して、業務プロセスを改善する取り組みの事例も出ています。
ヤマト運輸は、エクサウィザーズと協力し、AIを活用した業務量予測の精度向上に取り組み、経営リソースの最適配置を実現しました。MLOps導入により、機械学習モデルの開発・運用サイクルが高速化し、業務効率が向上したとのことです。特にコロナ禍のEC需要増加に対応するため、経験や勘に頼らないデータドリブン経営を推進したことと、自動化したプロセスにより、運用の安定性と予測精度が大幅に改善されました。
参考:ヤマト運輸、MLOpsで経営リソースの最適配置を実現
https://exawizards.com/works/20297/
【不動産】マンション査定価格の推測
マンションの価格を高い精度で推測するシステムも開発されています。
エクサウィザーズと三井不動産リアルティは、AIを活用した「リハウスAI査定」を共同開発しました。このシステムは、マンションの推定成約価格を即時に算出し、Web上で提供するものです。三井不動産リアルティの豊富な成約データをAIが学習し、物件の立地や特徴に基づいて精度の高い価格を提示します。MER(median error rate:価格精度算出における誤差の中央値を表す指標)において、首都圏1都4県でMER4.89%、全国ではMER5.34%と高い精度を示したとのことです。他の価格推定システムでは、MERが15%ほどにもなるケースもあるため、5%というのは比較的高い精度であることがわかります。この精度が高ければ高いほど、不動産の販売価格の予測精度が高まるため、価格交渉や仕入の際の意思決定に役立ちます。
参考:AIによりマンションの推定成約価格を即時に算出する「リハウスAI査定」をエクサウィザーズと三井不動産リアルティで共同開発
https://exawizards.com/archives/8412/
【製薬・創薬】AIを活用した新薬創出
製薬開発時の成功率の上昇や、プロセス効率化にAIを活かす事例も出ています。
中外製薬は「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」に基づき、AI技術を活用した新薬創出を推進しています。AIを使って疾患ターゲット探索(疾患と関連する遺伝子やタンパク質を特定すること)や薬物動態予測(薬物の投与・排泄までの過程を研究し、効果や副作用などを予測すること)を行い、開発の成功確率を向上させ、プロセスの効率化を図っています。また、近年開発が活発になっている中分子医薬においては、AIによるデータ解析で新規分子の設計を自動化し、創薬プロセスの短縮を実現しているとのことです。
参考:AIを活用した新薬創出
https://www.chugai-pharm.co.jp/profile/digital/ai_technology.html
AIを使ったサービス提供事例
BtoC、BtoBともにAIを活用したサービス提供が増加しています。
【資産運用】AIが自動で資産運用
ウェルスナビ株式会社は、AI技術を活用した自動資産運用サービス「WealthNavi」を提供しています。利用者のリスク許容度や投資目標に基づいて、AIが投資先を選定し、定期的にリバランス(資産配分の調整)を行うことで、長期的な資産形成を支援しています。ウェルスナビは、初心者でも簡単に利用できる設計が特徴で、専門知識がなくても安心して投資ができると人気です。
参考:ウェルスナビ(WealthNavi)|全自動の資産運用サービス
【インフラ】電力需要予測
日本気象協会は、気象予報士のノウハウとAI・機械学習を組み合わせた「電力需要予測サービス」を提供しています。電力需要は気象要素(気温、湿度、日射量など)に大きく影響されます。過去の電力需要データや気象条件を基にすることで、より高精度の電力需要予測が可能になります。
参考:電力需要予測 | 需要予測サービス | サービス | 日本気象協会
https://www.jwa.or.jp/service/weather-and-data/weather-and-data-02/
【コールセンター】電話応対AIサービス
LINE WORKS AiCallは、音声認識、音声合成、会話制御のAI技術を組み合わせた電話応対AIサービスです。自然な対話応答が可能で、単なるルールに基づく応答ではなく、AIがユーザーの会話を理解して対応するのが特徴です。企業の電話応対を効率化、特にコールセンターの業務を革新するために設計されています。
参考:LINE WORKS AiCall - LINE WORKS
https://line-works.com/ai-product/aicall/
ビジネスにおいて生成AIで業務効率化できること
文字起こし・議事録作成
音声の自動文字起こしが高い精度で可能です。会議の内容を文字起こししたりフォーマットに沿って議事録を作成したりしてくれる生成AIも登場しています。各社が提供している議事録作成サービスの活用や、Chat-GPTでの議事録作成も可能です。
文章作成・構成・コピーライティング
生成AIの得意分野としてアイディアの提案があります。広告や文章に使うキャッチコピーの案を、顧客ターゲットや商品コンセプトなどの軸に応じて複数提案してもらうことで、1から考える作業がスキップされるので、最終的なコピーのクオリティ向上に注力する時間が増やせます。
作成した文章の日本語チェック、誤字脱字の校正にも役立ちます。
スライド・プレゼン資料作成
説明したい文章や売上数字などのデータを入力することで、プレゼン資料やスライドを作成してくれる生成AIも登場しています。自動でグラフや図を作成し、またスライド全体のデザインをしてくれるので、資料の雛形がない時のたたき台として便利です。代表的なスライド作成ができる生成AIとして、Gamma AIやCanvaなどがあります。
スライドを自動作成する生成AI「Gamma(ガンマ)」の使い方・料金を紹介
法務系
生成AIに契約書のレビューをしてもらい、リスクを評価してもらうことで、法務スタッフの契約書レビューの効率が上がります。また、特定の条項についた事例検索や、法改正の追跡やコンプライアンスチェックも行ってくれます。一方で、最新情報ではないことがあるので注意が必要です。
また、契約書の雛形の作成・すでに使っている契約書を元に別の契約先用にカスタマイズするなどの使い方ができます。
プログラミング・コーディング
プログラミングは生成AIの得意分野の一つで、コード生成AIツールがいくつかあります。コードの自動生成、デバッグ支援、バグの特定などをサポートしてくれます。プログラマー・エンジニアがコーディングをした後に、開発中のコードを分析して自動補完してくれたり、バグの自動検出などを行ってくれます。
デザインファイルを読み込んでコーディングしてくれるコード生成AIもあり、実用性の高い使い方です。
画像の拡張子の変換
ファイルの拡張子変換サービスは無料枠だと1日の上限枚数に達してしまうことがたびたびありますが、生成AIで拡張子変更が可能です。JPEGからPNGへの変更や、iPhoneの写真の拡張子「HEIC」をJPGに変換するなど、少し地味ですが業務で役立つ使い方です。
エクセル・スプレッドシートの関数の作成
こちらもやや地味な使い方ですが、表計算ソフトでやりたいことがあっても上手に関数を組めない場合、生成AIに関数を組んでもらうのはおすすめです。Webで検索して出てくる関数よりも複雑で、自分ではあまり理解できない関数もありますが、例えばvlookupではカバーできない複雑な条件でも簡単にできてしまうので、日々の業務効率が良くなります。
翻訳・同時通訳
多くの生成AIでは、日英翻訳・英日翻訳、また韓国語や中国語(繁体字・簡体字)などの各言語の文章の翻訳が可能です。情報収集段階で意味を理解するためや、海外の人にビジネスメールを送る時に活用できます。一方で、雑誌やWebメディアの記事等で、ネイティブが読んでも違和感のない翻訳にするためには、人の手を加える必要はまだ一定あります。
また、音声入力も対応している生成AIでは、会議中の同時通訳をサポートしてくれる機能も登場しています。
まとめ:生成AIのビジネス活用は個人・企業ともに増加している
生成AIの企業での導入率は高まっていて、各業界・分野での社内向けの大規模な事例がどんどん増加しています。また、AIを活用した中小企業で導入できるサービスの増加や、個人の業務効率向上のノウハウも日進月歩で進化しています。今後、生成AIのビジネス活用はスタンダードになっていくので、興味を持ったらぜひご自身でも試してみてはいかがでしょうか。