建築・建設業界でAIの活用は進んでいる?
建築・建設業界でも、他の業界と同じようにAI活用が進んでいます。設計・施工・資材調達・デザイン・リスク管理など、様々な業務での活用事例があります。AI活用によって期待されることは、次に挙げるような建築・建設業界が抱えている問題点の解消です。
建築・建設業界の問題点
建築・建設業界が抱えている代表的な問題点をいくつか紹介します。
労働力不足と高齢化
建築・建設業界では、少子高齢化の影響により労働力不足が深刻化しています。熟練した技術者の多くが高齢化しており引退が進む一方で、若年層の新規就労者数は減少傾向です。その結果、技能の伝承が難しくなっています。
スケジュール管理の課題
プロジェクトのスケジュール管理は、建設業界において常に課題となっています。資材供給の遅延や予期しない天候、設計の変更などにより、工期が予定より長引くことが多く、納期・スケジュールが変更になるケースが頻繁にあります。建築・建設業界に対するネガティブなイメージのひとつに、こうしたスケジュールのズレをカバーするための長時間労働が挙げられるでしょう。
安全性と作業環境
建設現場では常に事故の危険がつきまといます。作業環境の過酷さや、安全対策の不備により、他の業種に比べ事故や怪我のリスクが高く、そのため人材が集まりにくい状況です。適切な安全管理体制を整え、現場の安全性を向上させることが求められています。
デジタル化の遅れ
他の業界と比較して、建築・建設業界はデジタル化が遅れています。下請け・孫請けなどで関わる人数が多く、小規模な工務店や個人の職人なども含めると、現場レベルでは紙ベースでのやり取りが非常に多いのが現状です。紙や口頭など、昔ながらの仕事のやり方に慣れている人が多いため、デジタル化を浸透させ、プロジェクト全体の効率化を進めることが課題のひとつです。
建築資材の価格変動と不安定な供給
建築・建設資材の価格は市場の影響を受けやすく、世界的な情勢の不安定さや、円安の影響などもあり、最近では価格変動も大きくなっています。資材の供給自体も不安定な状況が続いており、プロジェクトのコスト超過やスケジュール遅延の大きな原因の一つとなっています。こうした不安定な資材供給環境への対応も重要な要素です。
AI活用によるメリット
ここまで説明してきた建築・建設業界の問題点の解決方法の一つとして、AIの活用が期待されています。
設計プロセスの効率化
AIを活用することで、建物などの設計プロセスを大幅に効率化できます。建築デザインの初期段階でAIを用いることで、複数の設計案を自動生成し、データ分析を基にした最適な設計を提案します。BIM(Building Information Modeling)は、建物の設計・施工・管理に必要な情報を、3Dモデルとして一元管理する技術です。これをAIと連携させることで、設計変更などをリアルタイムで反映し設計者の作業負担を軽減します。
建設現場におけるプロセスの自動化と安全性向上
AIを搭載した作業ロボットや搬送ロボットは、単独での自律行動によって作業者の負担を軽減し、安全性を向上させます。特に、危険な作業や重労働をロボットが代行することで、作業員の安全性を確保できます。AIを搭載したセンサーやカメラの導入、データに基づく事故の予測アラートなど、管理者が現場にいなくてもリアルタイムでの安全管理が可能となります。
スケジュール管理の最適化
AIは過去の大量のプロジェクトデータを解析し、最適なスケジュールを提案することが可能です。資材の供給状況や天候の影響、現場スタッフの稼働状況などをリアルタイムでモニタリングすることも可能なため、プロジェクト管理者の負担が軽減されます。その結果、プロジェクト進行の円滑化が期待できます。
コスト管理・削減
コスト削減にも下記のような観点からAIが期待されています。
- 資材調達の最適化
プロジェクトに必要な資材の量を予測し、需要・供給を高精度で推測することで、コスト削減やサプライチェーンの安定化につながります。
- エネルギー効率の向上
建物の設計段階でAIを活用し、エネルギー効率の高い設計を行うことで、運用時のコストを削減し、持続可能な建築物を実現します。後述するZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)も、AIが設計する事例が出ています。
- 工程の最適化
建築・建設会社に蓄積された過去のプロジェクトデータを基に学習し、適切な順序で作業を進めることが可能です。作業工程の作成自体も効率化されます。
- 建物や設備の計測・メンテナンス
建物や設備の劣化をセンサーで把握し、傾向を学習することで劣化を予測し、最適なタイミングでメンテナンスを行うことで修理や交換のコストを抑えられます。また、検査や計測といった業務を行う人員も削減できます。
AI建築・AI建設の具体的事例
ここからは、建築・建設業におけるAI活用の具体的な事例を紹介します。
デジタルツイン
デジタルツインは、リアル空間にある情報をIoT機器(センサーなどが搭載されインターネット接続が可能な機器)などで集め、送信されたデータを基にサイバー(仮想)空間でリアル空間を再現する技術です。この技術を利用して、現実世界をリアルタイムでシミュレーションし、施工計画や資材管理に活用する事例を紹介します。
デジタルツインによる施工シミュレーション
コマツなどが設立したEARTHBRAINは、デジタルツインと人工知能(AI)を活用して土工事の施工計画を短時間で立案するサービスを提供しています。クラウド上に3次元の設計データと地形データを登録すると、最適な土量の分配のためのエリアの設定、トラックの走行ルートの選定や施工手順などを含んだ、工期を短くするための施工計画を提案します。
参考:コマツ系のアースブレーン、デジタルツインとAIで施工計画を1日で立案
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00154/01538/
ドローンとAI画像認識によるデジタルツインでの資材管理
鹿島建設とAI insideは、AIとドローンを活用した資機材管理システムを開発しました。ドローンが空撮した動画をもとに、AIが資機材を認識して3Dモデル上に表示することで、資機材管理が効率化されます。作業時間は2時間から30分に短縮されたとのことです。
参考:AIとドローンによる新たな資機材管理システムで作業時間を75%削減
https://www.kajima.co.jp/news/press/202307/19c1-j.htm
参考:AI inside 、鹿島建設と共同で「AIとドローンによる資機材管理システム」を開発、「AnyData」を利用し建設現場のデジタルツイン化に貢献
https://inside.ai/news/2023/07/19/aiinside-kajima/
様々なAI技術搭載のロボットの活用
建築・建設の現場において導入されているロボットにもAIが搭載される事例が登場しています。
自律走行・自動搬送ロボット
搬送業務をAI技術搭載のロボットが行うことで、省人化につながる事例をいくつか紹介します。
大成建設の自律走行搬送ロボットシステムは、フォークリフト型ロボットと軽量タイプのパレット型ロボットの2機種を使うことで、自由度の高い自動搬送を可能としました。従来のICタグやマーカーの設置による誘導では、決まった条件以外では作動しないものでした。AIによる画像解析やマッピングなどの技術を導入することで、建物内の構造の自動判別が可能になり、資材搬入やピッキングなど幅広い分野での活用が期待されています。
参考:自律走行搬送ロボットシステム「T-DriveX」を開発
https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2023/230821_9622.html
鹿島建設は、Preferred Networksと共同で、ロボットが現場内を自律移動するシステムを開発しています。事前設定がなくても、ロボットが自分の位置や周辺環境を認識することで、状況が変化する現場内を安全に移動できるようになるとのことです。
参考:建築現場用ロボット向けにAI技術を搭載した自律移動システムを開発
https://www.kajima.co.jp/news/press/202103/4a1-j.htm
自律型溶接ロボット
清水建設は、ロボット実験を積極的に行っていて、移動系のロボット以外にも様々なロボットを開発しています。
たとえば、溶接時に予定した厚みに仕上げるのは高度な技術が必要です。清水建設の開発したRobo-Welderは、ヒトの腕のように動く6軸のアームを搭載し、その先端に加工対象の形状を認識するレーザーセンサーを搭載することで、溶接を自動で実行してくれます。
双腕多機能ロボット
清水建設の開発したRobo-Buddyも、6軸のロボットアームを2本持つ多機能ロボットです。天井ボードをビス留めする作業において、片方のアームで天井ボードを持ち上げ、もう片方のアームでボードを下地材にビス留めしてくれます。材料供給ロボットと組み合わせることで、自律的に作業と移動も可能です。
参考:建設業界で広がる“建設ロボット”による自動化の潮流 人手不足対策の先に広がる未来
https://www.tel.co.jp/museum/magazine/interview/202309_01/?section=2
参考:ロボット実験棟
https://www.shimz.co.jp/company/about/sit/facility/facility14/
AIによる品質管理・異常検知
AIはセンサーとして現場の状況変化を検知することも得意で、品質管理や異常検知に多く活用されています。
コンクリート構造の見える化
コンクリートは様々な建築物で使用されていますが、経年劣化でのひび割れなどをモニタリングする必要があります。近年では、コンクリートの品質管理をAIで検知する事例が数多く出てきています。
鹿島建設では、コンクリート構造物の表層品質をAIが評価するアプリが活用されています。コンクリート構造物の表面の写真からAIが品質を評価するため、誰でも一定の精度でコンクリートの品質評価が可能です。
参考:AIでコンクリート構造物の表層品質を評価するアプリを開発
https://www.kajima.co.jp/news/press/202209/13c1-j.htm
大林組では、生のコンクリートの軟らかさの程度を示す指標「スランプ」を、AIで管理しています。生コンを車荷から下ろした時の画像から、AIがコンクリート全量のスランプをチェックします。人の操作が不要で、設置しておくだけで自動的にコンクリートの品質を管理できます。
参考:AIを利用したコンクリート品質管理 画像によるスランプ管理システム
https://www.obayashi.co.jp/solution_technology/detail/tech_d278.html
危険状況の察知・アラート
建設業は他の業界と比較して事故による死亡率の高い産業の一つですが、建築・建設現場の管理者が現場の状況すべてを把握するのは困難です。AIを活用して、危険状況を察知したりアラートを出してくれたりするシステムが登場しています。
mignという企業は、建設現場において事故の危険性の高い場所や状況を検出するAIシステムを開発しました。現場に一般的なWebカメラとPCを設置し、映像をWebアプリケーションが解析することで、AIが危険な状況を検知します。スマホへの通知や現場のブザーで注意喚起を行います。
参考:建設事故の危険性の高い状況を検出するAIシステムtrafeを提供開始
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000018.000100410.html
鹿島建設は、過去の災害事例をデータベース化し、AIが解析して類似作業の災害事例を見える化するシステムを開発しました。作業開始前の危険予知活動において、災害傾向を提示することで、危険予知の精度向上が可能です。
参考:AIを活用した危険予知活動支援システム「鹿島セーフナビ®(K-SAFE®)」
https://www.kajima.co.jp/tech/c_ict/safety_eco/index.html#!body_05
AIによる気候・自然環境測定
建設・建築現場では、気候などの自然環境、材料や建設物の状態などを把握する必要があります。AIによって自然環境などを測定して省力化した事例をいくつか紹介します。
風量測定
鹿島建設は、設備工事における「換気・空調設備の風量測定」を全自動かつ高精度に行う風量測定ロボットを開発しました。建物の空調設備の性能を担保するためには、全ての空調設備の吹き出し口を個別で測定する必要があり、技術者の負担が大きい業務でした。このロボットは自動で制気口位置まで移動し風量を測定可能で、作業者の負担を軽減します。
参考:風量測定業務を約6割削減する「Air-voTM」(エアボ)を開発
https://www.kajima.co.jp/news/press/202404/4a1-j.htm
表面水量測定
鹿島建設は、ダム工事などで使用する材料の表面水量を全量管理するシステムを開発しました。ダム建設では、使用される材料の品質管理において、材料の粒度と含水率を数時間に一回、昼夜問わずモニタリングする必要があり、試験員の負担が大きい業務でした。AI画像解析による粒度モニタリングシステムでは、材料の粒度分布と含水率から表面水量をリアルタイムで全量算出でき、省力化を実現したとのことです。
参考:成瀬ダムで試験要員を9割削減しつつ、CSG材全量の品質管理を実現!
https://www.kajima.co.jp/news/press/202403/28c1-j.htm
騒音リスクのシミュレート
大成建設は、建物の外壁面が強風時にどのぐらいの風騒音発生リスクがあるのかを、可視化する技術を開発しました。計測内容を3Dモデル上にマッピングしてシミュレーションすることで、騒音リスクを判定します。
参考:風騒音リスクの可視化技術「TSounds®-Wind」を開発
https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2024/240731_9821.html
設計業務におけるAI活用
現場の事例を多く紹介してきましたが、建築・建設の設計業務におけるAI活用の事例をいくつか紹介します。
海外の事例ですが、米Autodeskは、設計作業を自動化するAIの開発を開始しました。文章やプログラムコードを入力する、Chat-GPTなどの大規模「言語モデル」のAIに対して、こちらは、大規模「製品モデル」です。3Dの形状や、製品の仕様や特徴を学習することで、簡単な製品をAIで設計できる時代を目指していくとのことです。
参考:簡単な製品設計はAIにお任せの時代に、オートデスクが大規模モデル開発
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/news/18/15620/
ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の設計業務
ZEBとは、建物内のエネルギー消費を将来的にゼロにすることを目指す建物のことです。建物全体のことを把握して設計する必要があり、高度なノウハウや技術者の大きな労力が必要ですが、AIを活用して設計を効率化した事例があります。
清水建設は、ZEBの設計プロセスをAIに学習させ、ZEBの設計業務を代替するシステムを開発しました。顧客のニーズに応じてZEB化を提案することができ、約150床の大型病院に対するZEB化では、メンテナンス重視案、ランニングコスト重視案、快適性重視案といった異なる顧客ニーズに対応した3つのタイプの建物を提案できたとのことです。規模にもよりますが、検討業務が100倍以上効率化し、かつ提案内容も飛躍的に高度化したとのことです。
参考:AIでZEBの設計業務を代替!~設計業務の効率化と高度化という背反する課題を解決へ~
https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2023/2023023.html
3DプリントとAIを使った住宅デザイン
3Dプリント技術とAIを使って、住宅を自分でカスタマイズできる仕組みが海外では登場しています。
手ごろな価格の住宅を実現するための、世界的な建築コンペティションの受賞企業であるBeta Realitiesは、AI支援による住宅の設計が可能なプラットフォームを開発しました。AIが設計をサポートし、材料費の節約、効率的なレイアウトなどの提案も行ってくれます。また、現場の3Dプリンタに設計データを直接送信することで建設そのものを自動化できる、まさに次世代の建築技術です。
参考:3Dプリント×AIにより 住民みんなでつくる住宅群
https://mag.tecture.jp/culture/20240408-collective-parts/
自社専用の対話型AIの導入
現場や専門分野でのAI活用だけでなく、社員向けに生成AIを活用する取り組みが建築・建設業界でも進んでいます。
鹿島建設は、自社専用の対話型AIを、グループ会社を含む約2万人の従業員を対象に運用しています。外部への情報漏洩リスクを防ぎながら、従業員が生成AIを安全に利用できる環境を構築しているのが特長です。DXの一環として今後も推進していくとのことです。
参考:グループ従業員2万人を対象に専用対話型AI「Kajima ChatAI」の運用を開始
https://www.kajima.co.jp/news/press/202308/8m1-j.htm
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まとめ:建築・建設業界でのAI活用事例は増加している
建築・建設業界は技術が進歩していく一方で、安全性や労働環境などの課題から、労働力不足という課題に直面しています。AIの活用はこれらの課題解決の手段として期待されています。設計・施工・資材管理・運搬・検査などのあらゆる分野で活用が進んでいて、今後も多くの領域での活用が進んでいくでしょう。
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本メディアでは、今後も建築・建設業界のAIの活用方法をはじめとした、生成AIの活用方法について紹介していきます。メディアを運営するatmaLabでは、企業のAI / IT 導入アドバイザリーやAI / IT システム開発を受け付けています。